現存する最古の音楽について
最古の音楽というか、正確に言うと記録された中で最も古いものとして知られている音楽について。
Oh my god というインド映画を見ていたんですが、使われている音楽というか歌い方が日本人からすると特殊なんですよね。歌唱方法が独特で、なんていうか中東にありそうな感じ。コーラン読んでるときみたいな。あと思ったより踊らなかった(1回だけ唐突な踊りがあったけど)ので拍子抜けした。
で、中東っぽいなぁと思ったところから連想ゲームで「中東といえば古代文明」と思いつき、音楽のことについて考えていたので「古代の音楽ってどんななんだろう」と疑問に思いました。なんか長ったらしい前置きですね。
古代メソポタミアの音楽
古代の音楽、単純にググってみるとYoutubeの動画が引っかかりました。
なんかそれっぽい。中東っぽい音楽として音楽の時間に聞かされても違和感ない。でも、なんだろう。そもそも、本当にこれ合ってるのかな?
ということで、調べてみました。
元ネタは石版
この音楽は Hurrian Hymn no.6 という石版に書かれた音楽をなんとか再現したものを Lyre(リラ、ハープみたいな楽器)で演奏したもののようです。
Hurrian Hymnは楔形文字で記された古代メソポタミアの石版です。古代都市のウガリットのものとして現在の北部シリア辺りで発掘されました。動画のタイトルにもある通り紀元前1400年くらいのものとされています。ちなみにHurrian Hymnは「フルリ語の賛美歌」という意味で、別にこの石碑にそういうタイトルが付いていたわけじゃない。
また、音楽について記載された石版はウガリットにおいて29個出土しているそうですが、状態がよく解読できそうな石版がこのNo.6くらいしかない、ということでHurrian Hymn No.6 だけが最古の音楽の記された石版として理解されているようです。
動画の最初に写っている4枚の石版がHurrian Hymn no.6で、途中40秒あたりに映る楽器がLyraです。Lyraは軽く調べると古代ギリシャの楽器みたいですが、そもそもこの石版に記載されている音楽がLyraの音楽理論に則った書き方をされているので多分メソポタミアでもLyraだったんでしょうね。
Hurrian Hymn No.6 の読みやすいバージョン、二重線より上が後述する賛美歌部分でそれより下が音楽らしい
上で「フルリ語の賛美歌」と書きましたが、動画はただの楽器の演奏です。賛美歌要素はどこにあるのか?
石版のなかみ(賛美歌編)
はじめに、石版は損壊がひどく、完全には文字を読み取ることができない部分もあるらしいです。そしてあまり見られない方言で記されており、解読するのが難しいらしい。
そんな難読石版を頑張って研究してくれたものをこんなところにペロっと貼り付けてしまうのも気が引けるので、以下のサイトを見ていただけると助かります。ドメイン的にはトロント大学(カナダ)のものなので多分信憑性あるでしょう。
http://individual.utoronto.ca/seadogdriftwood/Hurrian/Website_article_on_Hurrian_Hymn_No._6.html
石版は賛美歌部と音楽部があるらしく、今ここで紹介するのは賛美歌部です。
"x asḫastaniyaza ..." と始まっている辺りが楔形文字をアルファベットに置き換えたもので、その後に続く "For the ones that are..." で始まる箇所がその英訳です。
もとにしているのは2000年と2008年のドイツの論文で、楔形文字のアルファベット置き換え部分は英語に少し寄せて一部改変しているらしいです。
英語の部分を読んだんですが、よく意味がわかりませんでした……。主語が誰なのかがよくわからない。この文章誰視点なんだよ、みたいな。どうやらNikkalという子供を授ける女神に供物を捧げるといっすよ、という話のようですが。子供がいない女性が祈りを捧げる話なんですかね?
石版の中身(音楽編)
それで、肝心の音楽は賛美歌部の下に記載があります。音楽部は石版をぐるぐると一周しながら下へ進むように記載されているらしい(画像なし)。
この石版では、音楽が次のように記載されています。
<interval_name> <number> <interval_name> <number> ...
つまり、インターバルネーム(ってなんだよ)のあとに、謎の数字、という構造が延々と続く形式らしい。例えば以下のような感じ ...
qáb-li-te 3 ir-bu-te 1 qáb-li-te 3 ša-aḫ-ri 1 i-šar-te 10 uš-ta-ma-a-riti-ti-mi-šar-te 2 zi-ir-te 1 ša-[a]ḫ-ri 2 ša-aš-ša-te 2 ir-bu-te 2
で、インターバルネーム(上で言うqab-li-teなど)とは何かというとLyraの弦の番号のペアのことらしいです。アッカドの石版にLyraの音楽理論が記載されている物があり、弦のペアに名前がつけられていてこいつをインターバルネームと言うらしい。
インターバルネームで弦のペアはわかるのですが、その後に続く数字が何者なのかは謎のようです。一説によるとインターバルネームで指定された弦の演奏を繰り返す回数という話もあるようです。
そもそも、弦のペアもそのまま和音として弾くのか、それとも単音ずつ引いてメロディとするのかもわからないらしいですよ。なにぶん、情報はインターバルネームと数字だけで終わってしまっているので。
また、ここで記載されているのはLyraの音楽理論に則ったものであり、賛美歌部との関係は不明だそうです。単なるイントロダクションとしての物語なのか、あるいは番号と紐付けて歌詞になったりするのか。
それで、上記のインターバルと数字をもとに作ったものが以下だそうです。さっきのトロント大のページの下にあったMIDIファイルです。
http://individual.utoronto.ca/seadogdriftwood/Hurrian/HurrianHymnNo6Krispijn2000.mid
うーん、シンプル。
ちなみに、解釈は色々あるので先程のサイトの下の方に飛べば様々なMIDIファイルを見れます。
最古の音楽Revisited
では、改めて最初の動画を聞いてみましょう。こいつはどうやらDumbrillさんの解釈によるものだそうで、インターバルを和音に、その後の数字を単に回数として解釈したものに比べると異色です。インターバルを和音としてではなく、単一のメロディとして解しているような感じなんでしょうか。論文が見れないのでそのへんは不明ですが。
これは奏者の解釈によるアレンジも多分にあると思いますが、タラララランみたいなストロークとか、デケデケデケデケみたいなトレモロ奏法っぽい部分とか、あとそもそもメロディが乗っているのでいわゆる音楽という感じがします。
真面目な記事でびっくりしたでしょ。
以上です。
参考サイト